声の主を探して視線を下げると、そこには小さく丸い物体が置物のように鎮座していた。
──赤い。
まるでダルマのようだ。
──いや、ダルマなのか?
「………。」
なんともいえない表情で声の主を凝視する沢崎。
それが本当に声の主であるのかさえ図りかねているらしい。
互いに睨み合ったまま、無為に時間が流れて行く。
沢崎は、「どうぞ」と答えたきり声を発してはいない。
先に痺れをきらしたのはダルマの方だった。
「ちっ…何見てんだよ。」
やはり喋っていたのはダルマだった。
沢崎は無言で立ち上がり、ツカツカとドアに歩み寄る。
──悪い夢だ、忘れよう。
沢崎は何事もなかったかのように再びドアを閉めた。